コレクションノススメ
宮崎大学の退職を記念して、ささやかなコレクション展を開く運びとなりました。蒐集を始めたきっかけは二つあります。
一つは、大学院時代に東京国立博物館の学芸員より「鑑賞眼を磨きたいのなら、何でもよいから対象を決めて集めなさい」との助言をいただいたことです。
もう一つは、宮崎大学に着任した翌年から美術批評活動に入ったのですが、後に大先輩より「足でこまめに展覧会を回り、応援したい作家に出会ったら作品を買う」と、批評家の心得を説かれたことです。
したがって、もともと統一的なコレクションの形成を目的としたものではなく、日本の画論研究に関わる近世の南画等の軸物と、批評執筆のために展覧会を回る中でこれはと思った現代美術家の小品とが、マイコレクションの二本の柱となりました。
今回は、後者の現代美術家の小品群の中から、さまざまな技法による版画と素描、水彩画と立体造形の、いずれも抽象的な作品を展示しています。
本展のお話をいただいて、改めて小コレクションの全体を眺めてみて、私の興味は作風の変わり目に位置するような、挑戦的な表現に存することに気づきました。この点は、御用絵師の粉本主義を痛烈に批判した、南画論の精神にも通じるところかもしれません。
小粒でも芯の通った作品の魅力をひと時楽しんでいただき、また密かに美術作品のコレクションを始めてみようかと思っていただけたら望外の喜びです。
石川千佳子